1月9日(土) 11:12 am 駅
「う〜。寒いよ〜〜〜〜〜〜」
大きく伸びをしようとした瞬間、私は心の底から後悔していた。
コートの襟を合せる間もなく、その町の空気はよってたかって歓迎の意を表わしてくれた。
『肌を刺すような寒さ』って言葉は、きっとこんな時に使うんだろうと思う。
でも私は、『心の何処かで、知らない空気を感じられることを喜んでいる自分』が居ることを認め
ていた。
「ね、そのジャンボミックスパフェデラックスって、みさきなら二つぐらい軽いと思わない?」
初詣の帰り、雪ちゃんは情報誌の特集で読んだとかいうお店のことを話してくれた。
「雪ちゃん………私をバケモノみたいに言わないでよ」
「そう? みさきが普通の人間だったら、さっきのたいやき屋はお昼で閉店しないわよ」
いつもの調子で、私の抗議はさらりと否定される。
「うー………」
何も言い返せない。
「で、行くの? 行かないの?」
「………行く」
「それでこそ、みさきね」
なんとなく、雪ちゃんの口元が笑ったような気がした。
「雪ちゃん、それ、誉めてないよ」
「誉めた覚えはないわ」
悪びれた様子も無く、雪ちゃんは言い放った。
『これ食べて帰って来れたら、みさきの借金、全部無かったことにしてあげる』
そんな雪ちゃんの言葉にそそのかされ、飛行場から電車を乗り継いで数時間、私は一年の半分
近くを雪と過ごすという街に来ていた。
今考えてみれば、それは私にもっと広い世界を見せたいという、幼なじみ――雪ちゃんの心遣い
だったのかもしれない。そんな気がした。
ただ、雪ちゃんに借りた金額は、交通費だけで、軽くそれを超えてしまうのだけれど。
「えーっと、『百花屋』だったよね」
私は確認するように呟き、とりあえず予約を入れた駅前のホテルに向かうことにした。